緑谷出久と爆豪勝己

 

僕のヒーローアカデミア33巻までのネタバレを含みます。

 

 

 

ヒロアカの主人公、緑谷出久とその幼馴染でありライバルの爆豪勝己の関係性は、幼少期に遡る。

もとよりガキ大将気質の爆豪は優秀な個性を持ち、緑谷は無個性だったことで、その上下関係は確固たるものになる。

 

二人とも、目指すヒーロー像はオールマイトだった。

 

オールマイトのどこに憧れて互いのヒーロー像として落とし込んだのか、その差はなんなのか。

ナンバーワンという肩書きはもちろん、その働きは迅速で全ての人を救い、悪を倒す。わかりやすく単純とも言えるヒーローとしての姿は、無垢な幼少期こそ受け入れられやすいように思う。その裏で、オールマイトの成し遂げていた完璧を求められ、オールマイトに近づくことを諦めてしまったヒーローがたくさんいたことをコミック内で描写されたとき、私はぞっとした。

体を蝕みながらも人々を救うために戦い、守り続けるオールマイトを動かすのは、正義感ただ一つではないだろうか。ここでいう正義感には、誰も傷つけず悪を倒すことで人々の期待に応えること、というのがしっくりくると思う。もちろん、もっと広義であると思うが、あえてここでは限定させてもらう。

つまりこのオールマイトの正義感は、民衆のヒーローに対するイメージそのものになってしまった。

 

緑谷の中のヒーロー像も、そっくりそのままこの正義感に当てはまる。自分に力がなくても人を助けてしまう性格は、オールマイトのようになってこそ満たされるものがあると、きっと本人も感じていたことだろう。まわりにどれだけ批判されても自分が正しいと思ったことを貫くことが正解なのだと、彼は幼少期に何度も見たオールマイトの姿から落とし込んでいる。自分の信念のためにはルールも簡単に破ってしまったり、誰がいっても聞く耳をもたなかったり、周りを振り回してしまう欠点も緑谷は学んでいく。

 

対する爆豪は、オールマイトが生んだ正義感に犠牲になってきたヒーローたちそのものとも言える。誰かの上に立つことで劣等感を覆い、自分がナンバーワンだと言い張る。ただ一つ彼が他のヒーローと違ったのは、幼少期からオールマイトの正義感に憧れてきていること。そしてオールマイトのような正義感を強く持った身近な人間が、無個性で自分より劣っていることに、幼少期の爆豪は大きく混乱したことと思う。だから緑谷に憧れることなく、蔑み、避けてきていたのに、緑谷は純粋な気持ちで爆豪の能力に憧れを持ちながらOFAを得て、いつの間にか爆豪より多くの人を救っていた。

オールマイトの正義感そのものが完璧でないことを、爆豪は緑谷を近くで見ることでよくわかっていた。そしてさらに爆豪が人質になったことでオールマイトが力を使いきり、ヒーロー活動ができなくなってしまったのを目前にし、重く責任を感じてしまう。そこで自己犠牲の上で成り立つ救済が全ての幸せにつながるわけではないことを、爆豪は改めて知っていく。自分がどれだけ傷ついても「これでよかった」と笑われてしまうことが、とてももどかしかったことだろう。

さまざまなことがあった中で、爆豪の中のオールマイトへの憧れがなくなることはなかった。緑谷を間近で見ているから、彼とオールマイトの強すぎる想いを理解はできる。だか共感はできない。そこが大きな緑谷と爆豪の違いだと考えている。

 

作中のキーワードとして、「救けて勝つ」「勝って救ける」というのがある。

たくさんの人を救う姿に憧れた緑谷と、誰にも負けない姿に憧れた爆豪。救うためには自己犠牲を受け入れてしまう緑谷と、勝つという言葉にプライドを乗せて自分を追い詰めていく爆豪。

 

緑谷にとって救けるべきものとは自分以外の全て。憧れのヒーローから受け継いだ理想の力を磨き上げ、たくさんの人を自分の正義に従い救けていくことで満たされていた緑谷は、大きな敗北を経験した。その経験が自分を追い込み、守れないものがあった事実を受け入れられなくなっていく。世界を守ってくれていたオールマイトはもういない。全てを守るためには、緑谷がオールマイトになるしかない。「次は君だ」というオールマイトのヒーローとしての最後の言葉を、緑谷個人に言われているように捉えてしまったのは、OFAを受け継いでいるということと、緑谷の理想が一人で全てを守るオールマイトの姿だったから。

 

対する爆豪は、勝つことにこだわっていたが、そのプライドは早々に砕かれる。雄英には優れた人がたくさんいたし、勝つこともできず、オールマイトを犠牲にしてしまったこともあった。そして何より、蔑んできた緑谷に負け続けてきた。力で人の上に立ち続けていたのに勝てなくなったことで、自分自身は大きく傷ついていくが、周りの友人たちは誰も彼を馬鹿にしなかった。ひときわ目立つセンスの上に努力があることを、緑谷を含むクラスメイトたちはよくわかってくれていた。雄英入学前に緑谷に救われたときに次いで、神野でクラスメイトたちが助けに来た時、改めて救われる側の立場になったことで、受け取り方に大きな変化があったことに気がついたのだと思う。徐々に一人では成し遂げられないことがあることを、爆豪は気づいていく。

 

周りの人を尊敬していたはずなのに、受け継いだ意思と個性による使命の重さに潰されそうになり、自分とそれ以外という分類しかできなくなって、独裁的になっていってしまった緑谷と、自分とそれ以外だった価値観が壊されていき、自分の隣に立つ人物や先に立つ緑谷のことを受け入れて、「救ける」「勝つ」ことの意味に気づいていった爆豪の立場は、今では完全に入れ替わっていった。

「救ける」ことも「勝つ」ことも、一人でできなければみんなでやればいい。そう爆豪に言われたことが、どれだけ緑谷にとって衝撃だったかは、彼らのやりとりを見ればわかることだろう。

 

憧れのヒーロー、オールマイトが残した意思を継ぎながら、オールマイトが成せなかったことに仲間たちと立ち向かっていく。

二人の関係性を中心に、どんどん成長していくヒーローの卵たちの姿が、どうにも楽しみで仕方がない。

 

 

ヒロアカ、終わらないで。